高校生が水中ロボットを開発,海底地形調査と沈降物確認の模擬訓練を実施
模擬訓練を実施した場所は,いおワールドかごしま水族館が運営する「イルカ水路」です.鹿児島湾に隣接する水路で,水族館で飼育するイルカが営業時間中は自由に出入りできる場所です.入館料なしでイルカを見られる全国的にも珍しい場所とあって,地元の人にとっては人気のスポットになっています.
● 電気回路や水密構造のノウハウ習得,東京海洋大が技術指導
水中機器の最も基礎的な制御方法を習得するため,東京海洋大学から水中ロボットに関する技術指導を受けました.水中ロボット製作を通して電気回路や水密構造の基礎に関するノウハウを習得したといいます.
今回開発した水中ロボットは,縦34cm×横26cm×高さ20cmほどの立方体で,合成樹脂やプラスチックなどでできています.完全防水仕様にした透明のアクリル製カプセルの中には,広角CCDカメラや,LEDライトや垂直スラスタ(プロペラ),水平スラスタなどを制御する電気回路を収めています.
水中ロボットを操縦するコントローラも自作であり,水中ロボット本体と50mのケーブルでつなぎました.東京海洋大学 海洋工学系 海洋電子機械工学部門の後藤 慎平助教によると,東京湾でも港湾部は水深15mほどなので,50mの長さがあればすべての港湾内を調査できると言います.
● 当日は課題見つかるも「1万点のでき!」の太鼓判
鹿児島水産高校でSPH推進委員の1人である,海洋科 機関コースの古田 岳史教諭は,半日行った模擬訓練でいくつかの課題を残したものの「(完成して,無事に動いたロボットを見て)喜んでいる生徒の姿を見られて嬉しかった」と顔をほころばせます.
いおワールドかごしま水族館を運営する鹿児島市水族館公社 展示課 交流学習係の出羽 尚子係長は「(イルカ水路の捜索で海底沈殿物が)何もなかったのは,イルカの健康のためになります.調査してくれて良かったです」と感謝しました.
水中ロボット制作で協力した東京海洋大学の後藤助教は,当日の模擬訓練について「(100点満点でいえば,)1万点の出来.昨日記者会見した“はやぶさ2号”の玉手箱回収に成功したJAXAの担当者も1万点と言っていた」と,歴史的快挙を成し遂げたタイムリーな話題と関連付けて,生徒らの努力を高く評価しました.
当日見つかった課題は,水中ロボットが上下するのに使用するスラスタの動作が不安定だった点,カメラで撮影した映像が太陽光の影響で白く飛んでいた点,本体内部へのわずかな浸水などです.今後は,課題を修正し,高校での課題研究や,船底の確認など地元での利活用も視野に入れています.
2018年度の学習指導要領改訂で,水産高校機関科の教科書に水中ロボットに関する教育が明記されることが決定しており,2022年度から使用開始される見通しです.鹿児島水産高校はSPH事業での成果を生かし,今後,水中ロボットの操縦方法などをマニュアル化して,全国にある46校の水産高校のうち機関コースがある25校への配備を目指すことにしています.
<今回のSPH事業で水中ロボット製作に携わった機関コース11人全員のコメント>
揚野 巧人さん(18歳)「水族館の人に協力してもらい,普段できない経験をさせてもらいました.3年間やってきて,いろんな課題もまだ残っていますが,実際に機械的なことに触れて,すごくためになりました」
松尾 光晟さん(17歳)「不完全な部分もありましたが,しっかり自分たちでコミュニケーションをとりながら,みんなで役割を分担し,操縦もできました.もともと機械をいじるのが好きだったので,今後はロボット作りなどの趣味にもつなげていきたいです」
藤元 稜さん(18歳)「今日は右側のプロペラが動いていなかったですが,いつもは(左右)どっちも動いていました.どっちも動いていたら今日(の結果)はもっと違っていたのかも.機体の基板のはんだ付けは何度も失敗し,難しかったですが,最終的にはうまくなりました.みんなで団結してモノづくりができていい経験になりました」
茶屋道 丞之心さん(18歳)「(3年間水中ロボットの製作に取り組み)わからないこともあったけど,みんなで協力しながら完成できました.今日は初めて海で運転しましたが,一から作った水中ロボットがちゃんと運転できて良かったです.今後は細かい機械を作った作業を,機関の整備などの仕事に生かしていきたいと思います」
梅田 翔伍さん(18歳)「3年間の締めくくりとしてROVはうまくいったと思います.1年目はわからないことだらけで,3年目は結構いろいろな細かい作業ばかりで3年生が一番大変でしたが,みんなとちゃんと協力してできたかなと思います.来年からは就職しますが,ROVを通していろいろ学べたので船内生活でも生かしていきたいです」
池田 壮志さん(18歳)「結果的に(ロボット内に)浸水しましたが,それに気付けて今後の課題になりました.基板を作るときの配線のはんだ付けが難しいと思いました.細かい作業だったので苦労しましたが,だいぶ上達しました.今後進学し,また船に乗るので,実技や後輩への指導などに頑張りたいです」
下木原 黎さん(18歳)「今日はすごくためになりました.(水中ロボットを)一から作るということで,大変なところがたくさんありましたが,(海洋大学の)後藤先生らの助言を聞いて,わかっていくところがたくさんあったので,みんなで協力して無事完成しました.今後は,災害や海難が起きたとき,ROV操縦を経験したので航路確保に生かしていきたいです」
永江 泰尊さん(18歳)「今日は初めての模擬訓練で緊張しましたし,うまくいくか心配もありました.学校で予備動作したとき,右のスラスターが不安定だったので,不安が的中してしまいました.(SPH事業の)3年間の最後の年なので,締めないといけない気持ちでプレッシャーもありました.(先生らの)助言で完成にこぎつけられてよかったです.お互いに同じ目標に向かって取り組んだので,団結力が強くなりました.開始当初はあまり好きじゃなかったモノづくりが,今では少し好きになりました.今後はこの経験を生かして船で頑張っていきたいです」
神園 翼さん(18歳)「災害時の航路確保に生かせたらと思います」
福永 旬成さん(18歳)「航路確保や水中捜索でも生かせたらと思います」
内山 海誠さん(18歳)「地道にコツコツ続けることを学ぶことができました.災害時の航路確保に生かせたらと思います」
● 鹿児島水産高校は県内初のSPH高校,水中ロボット開発も全国初
2014年度に始まったSPH事業は,高度な知識・技能を身に付け,社会の第一線で活躍できる専門的職業人材を育成するのが目的です.5年目に初めて応募した鹿児島水産高校は,応募総数47校の中から採択された8校の一つです.鹿児島県内の高校では初めての採択で,SPH事業で水中ロボットを制作するのも初めての取り組みでした.
鹿児島水産高校は,鹿児島県内では唯一の水産高校です.海洋科,情報通信科,食品工学科の3学科があり,1学年の定員は各40人です.