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トラ技ジュニア検定⑯【正答と解説】機器のショートを防ぐ! 入力と出力信号間を絶縁するアイソレータ

トラ技ジュニア検定⑯【正答と解説】機器のショートを防ぐ! 入力と出力信号間を絶縁するアイソレータ

トラ技ジュニア No.60(2025冬号)p.36掲載

【トラ技ジュニア検定⑯】「機器のショートを防ぐ! 入力と出力信号間を絶縁するアイソレータ」の解答と解説を掲載します.                英語版はコチラ

問題文および図については,誌面にてご確認ください.                                                <宮崎 仁>

[正解]

 (ア) 

 

[解説]

 ア~ウはアイソレータの三つの方式についてそれぞれの特徴を述べた文,エはアイソレータの方式に関わらない共通の性質を述べた文です.

●フォトアイソレータの原理と特徴
 最も基本的なフォトアイソレータ(フォトカプラ)の構成を図1に示します.

図1 フォトアイソレータ(フォトカプラ)の基本構成

1次側に入力された電気信号(ディジタル信号)はLEDなどの発光素子によって光信号に変換され,2次側に伝えられます.2次側では,光信号を受け取ったフォトトランジスタなどの受光素子によって元の電気信号(ディジタル信号)に復元されます.1次側と2次側は電気的に絶縁され,信号だけが伝えられます.
 図1の例では,入力信号が”L”のときLEDに電流が流れて光り,入力信号が”H”のときには電流が流れないので消えます.”L”,”H”のディジタル信号を”光る”,”消える”の光信号に変換していることになります.受光側では,光を受ければフォトトランジスタが導通してプルアップ抵抗に電流が流れ,出力のディジタル信号は”L”になります.光を受けないときはフォトトランジスタは非導通で,出力のディジタル信号は”H”になります.
 フォトアイソレータは直流から交流まで幅広く対応可能で,フォトアイソレータはディジタル信号の絶縁に適しています.ただし,図1の基本構成のものは簡単で低コストという特長がありますが,あまり高速のディジタル信号には対応できません.
 半導体素子やIC,抵抗やコンデンサなどの電子部品は一般に寿命が長く,熱や湿度,腐食性ガスなどの悪条件を避ければ,数年から数十年にわたって使い続けることが可能です.ただし,内部の化学反応を利用する電池や電解コンデンサ,発熱が大きい電球,接点や機械的な可動部をもつスイッチやモータのように,寿命の短い部品もあります.
 発光素子であるLEDは,半導体の特徴である長寿命をもっていますが,電流を流して発光するとき内部の結晶にわずかな欠陥を生じるので,長期間使用すると次第に発光効率が低下する経年劣化の問題があります.LED照明は,白熱灯や蛍光灯などの電球に比べればずっと長寿命ですが,経年劣化で徐々に暗くなっていくことが知られています.LEDを利用しているフォトアイソレータでも,一般的なICや受動部品に比べて寿命が短いことに注意が必要です.

●ディジタル・アイソレータの原理と特徴
 離れた二つの導体の間で空間を通って電気信号を伝える方法もあります.
 コンデンサのように絶縁された二つの極板(導体)を向き合わせて配置すると,直流的には信号は伝わりません.しかし,交流的には極板間の静電容量によって信号が伝わります(容量結合).また,トランスのように絶縁された二つのコイルを同じ磁路に巻いていくと,直流的には信号は伝わりません.しかし,交流的にはコイル間の相互インダクタンスによって信号が伝わります(磁気結合).
 容量結合や磁気結合は,直流的には絶縁して交流信号だけを通します.ディジタル信号は直流成分を多く含み,そのまま絶縁すると信号が正しく伝わらないので,何らかの方法で直流成分を含まない信号に変換する必要があります.たとえば,図2のように交流の搬送波を用いて変調を行い,直流成分をなくしてからコンデンサなどで絶縁します.

 

図2 容量結合型ディジタル・アイソレータ(変調方式)の基本構成

1次側の変調回路では,ディジタル信号から直流成分を除いて変調信号を生成する.
直流成分を含まない変調信号を,コンデンサまたはトランスで絶縁して2次側に伝える.
2次側の復調回路で,変調信号を元のディジタル信号に戻す.
図は,変調(搬送波)とコンデンサ(容量結合)を用いた例.他にもいくつかのやり方がある.

 

 図2の例では,ディジタル信号の”L”,”H”と,搬送波の”なし”,”あり”を対応させる変調方式を採用しています.変調回路では,入力信号が”L”のとき変調信号を”搬送波なし”,入力信号が”H”のとき変調信号を”搬送波あり”とします.復調回路では,変調信号が”搬送波なし”のとき出力信号を”L”,変調信号が”搬送波あり”のとき出力信号を”H”とします.これによって,直流的には1次側と2次側は絶縁され,交流の搬送波成分だけがコンデンサを通過し,入力と同じディジタル信号が出力に得られます.

 図3のように,絶縁部分にトランス(磁気結合)を用いても,同じように絶縁して信号だけを伝えることができます.

 

図3 磁気結合型ディジタル・アイソレータ(変調方式)の基本構成

変調(搬送波)とトランス(磁気結合)を用いた例.

 容量結合方式も磁気結合方式も,交流結合の原理は単純なのですが,ディジタル信号から直流成分を除去する回路を必要とします.以前(1970年代から1990年代頃)は,原理的に直流除去を必要としない光結合方式(フォトアイソレータ)が広く用いられていました.最近では,変調などの直流除去回路が簡単に実現できるようになり,容量結合方式や磁気結合方式のディジタル・アイソレータ製品も普及しています.
 容量結合方式と磁気結合方式の共通の特徴として,交流の周波数が高いほどコンデンサやトランスを小型化できます.また,交流の周波数が高いほど,高速のディジタル信号に対応可能になります.最近の技術ではかなり高周波の搬送波を扱えるので,アイソレータの小型化や高速ディジタル信号への対応という観点で,容量結合方式や磁気結合方式がやや有利だと考えられます.
 さらに,部品の寿命という観点でも容量結合方式や磁気結合方式がやや有利です.ただし,特別に小型化や高速性を求めないのであれば,従来のフォトアイソレータ(フォトカプラ)にもコスト面での利点があります.

●選択肢の検討
 問題の選択肢,ア~エの記述を検討してみましょう.

ア フォトアイソレータは,発光素子であるLEDが経年劣化して光量が低下する問題があるため,容量結合型や磁気結合型に比べて原理的に寿命が短い

 説明したように,これは正しい記述です.

 

イ 容量結合型のディジタル・アイソレータは,高周波を吸収して電圧を平滑化するコンデンサの働きで信号を絶縁するため,光結合型や磁気結合型に比べて原理的に低速である

 容量結合型はコンデンサを用いて高速の交流信号を伝えており,「高周波を吸収して電圧を平滑化するコンデンサの働きで」という部分が誤っています.コンデンサは周波数が高くなるほどインピーダンスが低くなるので,図4(a)のように直列に使うと高周波を良く通します.コンデンサを絶縁に使うときは,この接続です.
 一方,図4(b)のように電線とグラウンドの間にまたがるように使うと,電線上の高周波成分がグラウンドに短絡されます.直流的には短絡されないので,電線上の電圧を平滑化する働きがあります.高周波をよく通すという性質自体は変わりませんが,接続のしかたが違うので,働きが全く違います.イの記述は二つの接続を混同しています.
 アイソレータの原理的には,電気⇒光,光⇒電気を変換する光結合型や,電気⇒磁気,磁気⇒電気を変換する磁気結合型に比べて,変換を必要としない容量結合型は高速化に有利だと考えられます.実際の製品では,容量結合型と磁気結合型のディジタル・アイソレータは高速,光結合型のフォトアイソレータは低速のものが多くなっています.

図4 コンデンサの性質と二つの接続

(a) シリーズ(直列)接続

 

(b) シャント(短絡)接続

ウ 磁気結合型のディジタル・アイソレータでは,電源トランスと同様に大きくて重い鉄心に巻線を巻いて作るため,光結合型や容量結合型に比べて小型化することが難しい

 電源トランスは,商用電源の周波数(東日本は50Hz,西日本は60Hz)を通し,直流は絶縁します.低周波のため巻数が多く,大電流を流すためにコア(鉄心)が太くなることで,大きく重たくなっています.それに対して,ディジタル・アイソレータでは,通過させる周波数が高いため巻数が少なく,電流も小さいのでコアも小型化できます.
 実際の磁気結合型ディジタル・アイソレータ製品では,巻線のかわりに平面コイルによるコアなしトランスを用いて,容量結合型と同様の小型化を実現しています.したがって,ウの記述は誤りです.

 

エ 二つの回路の間でアイソレータを用いて信号を絶縁するとき,電源やグラウンドは絶縁せず共通に接続しなければならない

 二つの回路のグラウンド電位が異なるような場合に,信号線を直接つないでしまうと,大きな電流が流れたり高い電圧が加わったりして誤動作や故障を招く危険があります.それを防ぐために絶縁を用いますが,信号線だけでなくグラウンド線や電源線もすべて絶縁する必要があります.
 たとえば,図2図3に示したディジタル・アイソレータの場合,アイソレータに内蔵している変調回路や復調回路を動作させるために,グラウンド端子と電源端子があります.それも,1次側のグラウンド(GND1)と電源(Vcc1),2次側のグラウンド(GND2)と電源(Vcc2)というように2対に分かれているので,図5のように絶縁された別々の電源を使用する必要があります.

 

図5 グラウンドと電源の絶縁

電源,信号,グラウンドが全て絶縁される.

 

 図1に示した基本的なフォトアイソレータは,アイソレータ自体にはグラウンド端子や電源端子はありませんが,アイソレータに接続する1次側回路のグラウンド(GND1)と電源(Vcc1),2次側回路のグラウンド(GND2)と電源(Vcc2)は同様に絶縁された別々の電源を使用する必要があります.

 したがって,電源やグラウンドは絶縁せず共通に接続しなければならないというのは誤りです.

 

 以上より,本問の正解はアであり,イ~エは誤りです.