トラ技ジュニア検定⑭【正答と解説】電気を貯めて,必要なときに放電!性質も用途も多種多様なコンデンサ
トラ技ジュニア No.58(2024夏号)p.36掲載
【トラ技ジュニア検定⑭】電気を貯めて,必要なときに放電!性質も用途も多種多様なコンデンサの解答と解説を掲載します.
問題文および図については,誌面にてご確認ください. <宮崎 仁>
[正解]
(ア)
[解説]
解答群の4つの文は,4種類のコンデンサの構造や特性について述べたものです.このうち,エのマイカ・コンデンサはちょっと特殊でなじみが少ないかもしれませんが,アのアルミ電解コンデンサ,イの積層セラミック・コンデンサ,ウのポリプロピレン・コンデンサは広く使われている代表的なコンデンサです.
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ア アルミ電解コンデンサでは,アルミ箔の表面に薄く形成した酸化被膜が誘電体として働き,極板間隔dがきわめて小さいので大容量を実現できる.
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この文は正しい記述であり,本問の正解です.
アルミ電解コンデンサは,図1に示すように2枚のアルミ電極板の間に,電解質をはさんだ構造のコンデンサです.電解質とは,電離によって+イオンと-イオンを生じる物質で,イオンが移動することによって電気を伝える導電性をもちます.一般的なアルミ電解コンデンサは,液状やペースト状にした電解液を用いています.ポリマ(高分子)状の固体電解質を用いるアルミ固体電解コンデンサもあります.
通常,コンデンサは2枚の電極板に誘電体(絶縁体)をはさんだ構造が一般的です.静電容量Cは,極板面積S,誘電体の誘電率ε,極板間隔dによって,
のように決まります.大容量のコンデンサを実現するには,極板面積Sを広くする,誘電率εを大きくする,極板間隔dを小さくするという3つの方法があります.
アルミ電解コンデンサは,一方のアルミ電極板と電解質の間に,ごく薄い酸化被膜を形成し,それが誘電体として働きます.この酸化被膜は,コンデンサの製造工程において,アルミ電極板側に正電圧,電解質側に負電圧をかけることによって形成されます.コンデンサの使用時にも,製造時と同じようにアルミ電極板側に正電圧,電解質側に負電圧をかけて使用する必要があります.アルミ電解コンデンサが極性をもつのはこのためです.
なお,電解質側に均一に負電圧をかけるために,もう一方のアルミ電極板が使用されています.
図1 アルミ電解コンデンサの構造の概略
アルミ電解コンデンサでは,きわめて薄い酸化被膜が実質の極板間隔dとなるため,大容量を実現するのに適しています.したがって,アの「アルミ電解コンデンサでは,アルミ箔の表面に薄く形成した酸化被膜が誘電体として働き,極板間隔dがきわめて小さいので大容量を実現できる」は正しい記述です.
なお,アルミ電解コンデンサでは,誘電率εはフィルム・コンデンサより大きく,積層セラミック・コンデンサより小さい程度です.また,アルミ電極板の表面をエッチングして粗面加工することで表面積を拡大しており,大容量化には有利です.
一方,アルミ電解コンデンサの電解質による電気伝導のしくみは,化学反応(ケミカル)によるものです.電解コンデンサのことをケミコン(ケミカル・コンデンサ)と呼ぶこともあります.化学反応は温度や気圧など外部環境による変動が大きく,また金属や半導体に比べて電気伝導の速度が遅く,高周波の用途には不向きです.
さらに,酸化被膜には整流性があって,アルミ電解コンデンサが極性をもつ原因となっています.アルミ電極側を正電圧,電解質側を負電圧にして電圧をかけると絶縁性の酸化被膜ができるのですが,逆方向に電圧をかけると短絡して故障します.さらに,順方向でも定格電圧を超える電圧をかけると酸化被膜が成長し,静電容量などの特性が悪化するだけでなく,故障の原因になります.
さらに,化学反応にともなって内部にガスが発生したり,経年変化によって電解液が蒸発したりして静電容量が減少するなど,アルミ電解コンデンサには注意すべき点が多くあります.
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イ 積層セラミック・コンデンサは,多数のセラミック・コンデンサを直列に接続した構造のため,単層のセラミック・コンデンサより静電容量は小さくなる.
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この文は誤りです.
セラミック・コンデンサでは,金属(電極)とセラミックス(誘電体)を交互に何層にも積み重ねた積層構造のものが広く使われており,積層セラミック・コンデンサ(MLCC)と呼ばれています.極薄のコンデンサを積み重ねていますが,単純に積み重ねただけだと各コンデンサが直列接続になってしまい,静電容量が小さくなってしまいます.そこで,電極を1枚おきに交互に接続するようにして,各コンデンサが並列接続の関係になるようにしています(図2).
(a) 構造
(b) 等価回路
図2 積層セラミック・コンデンサの構造の概略
このような構造にしているのは,コンデンサの場合,直列接続すると合成容量は元の容量より小さくなり,並列接続すると合成容量は元の容量より大きくなる,という基本的な性質をもつからです(図3).
(a) 直列接続
※極板面積S,誘電率εは同じで極板間隔dが2倍になる⇒静電容量Cは元の1個分の1/2
(b) 並列接続
※極板間隔d,誘電率εは同じで極板面積Sが2倍になる⇒静電容量Cは元の1個分の2倍
図3 コンデンサの直列接続と並列接続
したがって,イの「積層セラミック・コンデンサは,多数のセラミック・コンデンサを直列に接続した構造のため,単層のセラミック・コンデンサより静電容量は小さくなる.」は誤った記述です.
本問では「単層のセラミック・コンデンサより静電容量は小さくなる」と書いているので,イは誤りだと考えた人が多いと思いますが,「直列に接続した構造」というのも重要な誤りですので注意しましょう.
なお,2枚の金属電極の間に1枚のセラミックス板(誘電体)をはさんだ構造の,単層のセラミック・コンデンサを,ディスク・セラミック・コンデンサと呼んでいます.単層構造の場合,1枚の円板状(ディスク状)のセラミックスが全体の強度を保持する部材になります.そのため,誘電体をあまり薄くできません.積層構造にすると,積み重ねた全体で強度を保持することになるので,各層の厚みはきわめて薄くできます.その点でも,積層セラミック・コンデンサは大容量化に適した構造といえます.
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ウ ポリプロピレン・コンデンサは,低損失のポリプロピレン・フィルムを誘電体に用いたもので,セラミック・コンデンサよりも高周波まで使用できる.
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この文は誤りです.
2枚のアルミ電極板の間に,誘電体としてさまざまな種類のプラスチック・フィルムをはさんだ構造のコンデンサは,総称してフィルム・コンデンサと呼ばれます.一般的な特徴として,絶縁性が高く物質的に安定していることはコンデンサの誘電体に適しています.ただし,誘電率は一般的なコンデンサの中では最も低い方です.
フィルムの材料によって,製造コストやコンデンサの特性が変わってきます.最も広く使われているのは,PET(ポリエチレン・テレフタレート)を誘電体として用いるもので,化学的にはポリエステルの一種であることからポリエステル・コンデンサと呼ばれたり,フィルムの商品名(マイラ・フィルム)からマイラ・コンデンサと呼ばれたりします.フィルム・コンデンサの中で最も低コストと言われていますが,温度特性が悪いことや,誘電損失が大きいため周波数特性が悪いという欠点があります.
PP(ポリプロピレン)を誘電体として用いるポリプロピレン・コンデンサも広く用いられています.特性は全般に良好で,コストもほどほどです.特に,誘電損失が小さくフィルム・コンデンサの中では最も高周波に適していますが,セラミック・コンデンサと比べると周波数特性は劣ります.したがって,ウの「セラミック・コンデンサよりも高周波まで使用できる」は誤りです.
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エ マイカ・コンデンサは,天然鉱物であるマイカ(雲母)を誘電体に用いるので高価だが,誘電率がきわめて高いので大容量を実現できる.
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この文は誤りです.マイカ(雲母)は,層状に薄くはがれる性質をもつ鉱物で,絶縁性も優れているので古くからコンデンサの誘電体として用いられてきました.マイカ・コンデンサは温度特性,耐熱性,高周波特性が特に優れており,計測機器,医療機器,通信機器,音響機器などの一部に使われています.
一方,誘電率はアルミ電解コンデンサよりやや高いですが,セラミック・コンデンサよりはかなり低いので,大容量向きではありません.また,厚みを薄くしにくいことや,面積を大きくできないこともあって,小容量の製品に限られています.したがって,エの「誘電率がきわめて高いので大容量を実現できる」は誤りです.