記事を検索

toragijr.cqpub.co.jp

トラ技Jr.

トラ技ジュニア検定⑫【正答と解説】エンハンスメント型nチャネルは代表的なパワーMOSFET

トラ技ジュニア検定⑫【正答と解説】エンハンスメント型nチャネルは代表的なパワーMOSFET

トラ技ジュニア No.56(2024冬号)p.35掲載

【トラ技ジュニア検定⑫】エンハンスメント型nチャネルは代表的なパワーMOSFETの解答と解説を掲載します.

問題文および図については,誌面にてご確認ください.                                                  <宮崎 仁>

[正解]

 (ウ)

[解説]

 この問は,MOSFETの原理や動作についての問題であり,その中でも特にパワーMOSFET,nチャネル,エンハンスメント型などの用語の理解を問う問題としました.

●パワーMOSFETとは
 MOSFETは代表的な増幅素子の1つですが,主にスイッチングに用いられます.その中でパワーMOSFETは,特に大きな電力をON/OFFしたり,PWM,インバータなどのスイッチング制御を行ったりすることを目的として作られた半導体素子です.
 ゲート(G),ソース(S),ドレイン(D)の3つの端子をもち,ドレイン-ソース間に電流(ドレイン電流ID)を流す(ON)か,流さないか(OFF)をゲート-ソース間電圧VGSによって制御できます.モータやヒータ,ランプなどの負荷駆動回路,電源回路などに幅広く用いられており,代表的なパワー半導体です.
 問題文に掲載した図1は,エンハンスメント型nチャネル パワーMOSFETの図記号です.MOSFETの原理や基本的な動作は,小信号用MOSFETもパワーMOSFETも変わらないので,小信号用MOSFETでもエンハンスメント型かつnチャネルであれば,図1と同じ図記号で表せます.

図1 エンハンスメント型nチャネル パワーMOSFET

●nチャネルとは
 MOSFETのチャネルとは,素子の中でドレイン電流が流れる経路の部分です.この経路がn型半導体であるものをnチャネルMOSFET,p型半導体であるものをpチャネルMOSFETと呼びます.
 エンハンスメント型MOSFETの回路図記号では,ドレイン側とソース側が破線でつながるように書かれています.この破線部分がチャネルを示し,ドレインからチャネルを通ってソースに電流が流れます(図2).

     図2 チャネルとは

 電流の向きを理解するためには,電気の運び手であるキャリアの存在を考える必要があります.p型半導体には正の電気の運び手(キャリア)である正孔,n型半導体には負の電気の運び手(キャリア)である自由電子が多く存在します.nチャネルMOSFET,pチャネルMOSFETはどちらも,キャリアが移動する方向はソースからドレイン方向です.pチャネルは正のキャリア(正孔)がソース→ドレイン方向に移動するので,電流の方向も同じくソース→ドレイン方向になります.nチャネルは負のキャリア(自由電子)がソース→ドレイン方向に移動するので,電流の方向はキャリアとは逆にドレイン→ソース方向になります(図3).
 電流は電圧が高い側から低い側に流れるので,nチャネルのパワーMOSFETでは,ドレイン→ソース方向に電流を流すために,ソースよりもドレインを高電圧にすることが必要です.以上より,回答群のアは誤った文です.

図3 nチャネルの場合のキャリアの移動方向と電流の方向

●nチャネルとpチャネルの図記号の違い
 図記号でのnチャネルMOSFETとpチャネルMOSFETの違いは,真ん中あたりにある矢印がソースからチャネルに向いていればnチャネル,チャネルからソースに向いていればpチャネルです(図4).

図4 nチャネルとpチャネル

 

●エンハンスメント型とは
 MOSFETはドレイン-ソース間に電流(ドレイン電流ID)を流す(ON)か,流さない(OFF)かを切り替えるスイッチとして働きます.MOSFETのゲート端子は制御入力の働きをもち,ゲート-ソース間電圧VGSによってON/OFFが切り替えられます.
 ここで,制御入力が0VのときスイッチがONになるものと,制御入力が0VのときスイッチがOFFになるものの2種類を考えることができます.
 前者は,制御入力の電圧を上げるとスイッチに流れる電流が小さくなる(OFFになる)ので,ディプリーション型(枯渇型)と呼ばれます.
 後者は,制御入力の電圧を上げるとスイッチに流れる電流が大きくなる(ONになる)ので,エンハンスメント型(増強型)と呼ばれます(図5).

制御入力=0VでON,制御入力>VthでOFFになるものを,デプリーション(depletion)型という.depletionは「枯渇させる」という意味をもつ.電源投入時にスイッチを確実にOFFにしておきたい用途には不向き

(a) ディプリーション型

制御入力=0VでOFF,制御入力>VthでONになるものを,エンハンスメント(enhancement)型という.enhancementは「増強する」意味をもつ.電源投入時にスイッチを確実にONにしておきたい用途に適する

(b) エンハンスメント型

図5 ディプリーション型とエンハンスメント型の概念

 ディプリーション型のMOSFETでは,ゲート-ソース間に全く電圧を加えない状態でチャネル(電流の経路)ができています.チャネルにはキャリアが集まっているため,ドレイン-ソース間のオン抵抗RDS(on)がきわめて低く,大きなドレイン電流IDを流すことができます.そして,ゲート-ソース間に電圧を加えていくと,それによって生じる電界が多数キャリアを遠ざけることによって,キャリアが枯渇してドレイン電流が流れにくくなります.枯渇型(depletion型)と呼ばれるのはこのためです.
 ディプリーション型の図記号は,初期状態でチャネルができていることを示すために,実線でチャネルを示しています(図6).

ディプリーション型のnチャネル パワーMOSFETの例
初期状態でチャネルが形成されていることを示すため,チャネルは実線で表記される

図6 ディプリーション型の図記号

 

 エンハンスメント型のMOSFETでは,ゲート-ソース間に全く電圧を加えない状態ではチャネル(電流の経路)がありません.チャネルの部分は,nチャネルならp型半導体,pチャネルならn型半導体になっており,ドレイン-ソース間のオン抵抗RDS(on)がきわめて高い状態です.ゲート-ソース間に電圧を加えていくと,それによって生じる電界が多数キャリアを引き寄せ,チャネルが形成されます.増強型(enhancement型)と呼ばれるのはこのためです.以上より,回答群のエは誤った文です.
 エンハンスメント型の図記号は,初期状態でチャネルができていないことを示すために,図2のように破線でチャネルを示しています.
 また,解答群のイですが,MOSFETのエンハンスメント型とは,上記のようにディプリーション型との構造,動作の違いを示す用語であり,電流容量や耐電圧などの特性の違いを示す用語ではありません.

●パワーMOSFETと微細化技術
 パワーMOSFETは図2のように1個の図記号で示されますが,実際のデバイスでは,半導体チップ上に多数の微細なMOSFETを集積し,並列に接続した構造のものが一般的となっています.1個のパワーMOSFETで電流容量が大きいものを作ると,チップ内部で電流経路に偏りを生じ,特定の部分に電流が集中することによって壊れてしまう場合があります.微細なMOSFETを並列に接続することによって,電流の集中や偏在を防ぐことができます.以上より,回答群のウは正しい文です.
 したがって,本問の回答群はウだけが正しい文であり,正解となります.