【トラ技ジュニア検定③ 正答と解説】回路図を読み解く! 電源回路の種類と特徴を知る
トラ技ジュニア No.46(2021年夏号)p.39に掲載した「【トラ技ジュニア検定③】回路図を読み解く! 電源回路の種類と特徴を知る」の解答を掲載します.
問題文および図については,誌面にてご確認ください.
宮崎 仁
[正解]
ウ
[解説]
まず最初に,
①シャント・レギュレータ
②シリーズ・レギュレータ
③低ドロップアウト(LDO)型シリーズ・レギュレータ
④降圧チョッパ型DC-DCコンバータ(Buckコンバータ)
の原理や特徴を解説します.そのうえで,解答群ア~エの記述について検討します.
①シャント・レギュレータ
シャント・レギュレータは,図1のようにシリーズ抵抗R0,シャント・トランジスタTr,分圧抵抗R1とR2,基準電圧VREF,制御回路で構成されます.
シャント・レギュレータでは,抵抗R0に入力電流I0を流してVI-O=I0・R0だけ電圧を降下させ,出力電圧VOUT=VIN-I0・R0が所定の値になるように制御します.R0の値は固定なので,I0を可変にする必要があります.負荷電流ILが変動しても十分な電圧降下が得られるように,トランジスタTrを用いてGNDに流す電流ISHUNTを制御します.このISHUNTは, GNDに捨てられる電流と見なせます.ILが小さいときには,その分だけISHUNTを大きくすることが必要であり,レギュレータの効率が低下します.
この,効率が低いことはシャント・レギュレータの基本的な欠点です.一方,R0で生じる損失PD=VI-O・I0は,ILが変動してもあまり変わりません.
ILが比較的小さくて変動しない基準電圧源の用途に適しています.
②シリーズ・レギュレータ
シリーズ・レギュレータは,図2のようにシリーズ・トランジスタTr,分圧抵抗R1とR2,基準電圧VREF,制御回路で構成されます.Trはトランジスタですが,可変抵抗のように働いて電圧を降下させます.
シャント・レギュレータとは違って,シリーズ・レギュレータでは無駄にGNDに捨てる電流はありません.固定抵抗R0の代わりに,トランジスタTrを用いて,その等価抵抗Rxを変化させてVOUTを制御します.入力電流I0のほとんどが負荷電流ILとなります.ILが小さくなれば損失も小さくなり,効率は低下しません.
一方,ILが大きくなれば比例して損失も大きくなります.入出力電圧差はVI-O=IL・Rxで,損失はPD=VI-O・ILとなります.VI-Oが大きいほどPDが大きく,またILが大きいほどPDが大きくなります.
シリーズ・レギュレータでは動作に必要な最小の入出力電圧差(ドロップアウト電圧)が決まっています.図2のようにNPNトランジスタを用いる回路のドロップアウト電圧は,一般に2~3V程度です.
このドロップアウト電圧は,次のような場合に問題になります.
(1) バッテリ入力の用途で,入力電圧の仕様が制約される.
たとえば,3V電池を何本か直列接続したものを入力として,5V出力の電源を作りたい場合,2本直列(VIN=6V)では不足で,3本直列(VIN=9V)か,それ以上が必要です.
(2) バッテリ入力の用途で,バッテリ寿命の仕様が制約される.
一般に,電池には公称電圧が表示されていますが,実際の電圧は使用によって次第に低下し,使用可能な最小電圧に達したら寿命となります.ドロップアウト電圧が大きいと,バッテリ電圧が少し低下しただけで寿命となってしまいます.
(3) 電源回路の損失を十分に小さくできない.
シリーズ・レギュレータは,なるべく入出力電圧差を小さくして使うと低損失にできます.ドロップアウト電圧の制約があると,それ以上損失を小さくできません.
たとえば,5V/1A出力の電源をシリーズ・レギュレータで作りたい場合,入力電圧を6Vにできれば,損失はPD=VI-O・IL=(6-5)・1=1Wになります.しかし,ドロップアウト電圧が3Vのレギュレータでは入力電圧は最小8V必要であり,損失はPD=VI-O・IL=(8-5)・1=3Wになります.
これらの問題に対処するために,特にドロップアウト電圧を小さくしたのが,③の低ドロップアウト(LDO)型シリーズ・レギュレータです.
③低ドロップアウト(LDO)型シリーズ・レギュレータ
図2のNPNトランジスタを用いたシリーズ・レギュレータでは,入出力間電圧差VI-O=VIN-VOUTが一般に2~3V程度必要です.5Vから3.3Vを作りたい場合や,6Vから5Vを作りたいような場合には使えませんでした.また,バッテリ入力の用途でバッテリ寿命を延ばしたいとか,入出力電圧差を小さくしてレギュレータの損失を抑えたいなどの要求に応えるために,動作に必要な最小の入出力電圧差(ドロップアウト電圧)を特に小さくしたシリーズ・レギュレータも作られています.一般に,低ドロップアウト(Low DropOut)型,略してLDOレギュレータと呼ばれています.
LDOには,図3のようにPNPトランジスタを用いたタイプや,MOSFETを用いたタイプがあります.ドロップアウト電圧は1V程度から,特に小さいものでは0.2V以下もあります.
低ドロップアウト型は,低損失型と呼ばれることもあります.ただし,どんなときでも低損失になるわけではありません.入出力電圧差が小さくなるような使い方をしたときに初めて低損失になります.
たとえば12Vから5Vを作る場合には,通常の(低ドロップアウト型でない)シリーズ・レギュレータでも損失は変わりません.低ドロップアウト型を使用して,かつ入力電圧を6V程度に下げることで低損失にできます.
④降圧チョッパ型DC-DCコンバータ(Buckコンバータ)
①~③のシャント・レギュレータやシリーズ・レギュレータでは,トランジスタはリニアに動作しています.それに対して,トランジスタにスイッチング動作をさせると,大幅にレギュレータの損失を抑えることができます.その代表的なものが,図4の降圧チョッパ型DC-DCコンバータです.Buckコンバータという別名でも知られています.
降圧チョッパ型DC-DCコンバータは,スイッチングによって入力電流を断続して制御を行います.ON時間を長くすれば平均入力電流IINは大きくなり,ON時間を短くすればIINは小さくなります.それによって,入力電力PIN=IIN・VINを制御できます.この断続された電流をコイルLに流して平滑化し,連続な負荷電流ILが得られます.さらに,コンデンサCで平滑化した出力電圧VOUTを抵抗分圧して,基準電圧と比較して定電圧制御します.
このときの出力電力POUT=IL・VOUTに電源回路の損失PDを加えたものが,入力電力PINとして供給されます.
シリーズ抵抗やシリーズ・トランジスタによる電圧降下を利用せず,スイッチの断続によって入力から出力に電力を伝達するため,入出力電圧差VI-Oや負荷電流ILが大きくても,損失PDは大きくなりません.そのため,シャント・レギュレータ,シリーズ・レギュレータ,低ドロップアウト(LDO)型シリーズ・レギュレータのいずれと比べても,高電圧入力,大負荷電流の用途では大幅に高効率,低損失を実現できます.
ただし,入力電流を断続して制御する部分は,シャント・レギュレータやシリーズ・レギュレータより複雑で大規模な回路になり,VI-OやILとは無関係に電力を消費します.そのため,特にILが小さい用途ではシリーズ・レギュレータより損失が大きく,効率が低くなる場合もあります.さらに,スイッチング時に比較的大きなノイズが発生することも,降圧チョッパ型DC-DCコンバータの欠点となっています.
* * *
[解答群アの検討]
スイッチングによって入力電流を断続して制御を行うのは④の降圧チョッパ型DC-DCコンバータであり,シャント・レギュレータではない.
したがってアは誤った記述.
[解答群イの検討]
入出力間電圧差VIN-VOUTと最大負荷電流ILmaxにほぼ比例した損失を生じ,ILが変動しても損失の大きさがあまり変わらないのは①のシャント・レギュレータである.シリーズ・レギュレータの損失は,負荷電流ILにほぼ比例して変わる.
したがってイは誤った記述.
[解答群ウの検討]
通常の(低ドロップアウト型でない)シリーズ・レギュレータより入出力間電圧差VIN-VOUTの最小値が小さいことが,③の低ドロップアウト(LDO)型シリーズ・レギュレータの特徴である.バッテリ入力の場合には,低ドロップアウト型ならより低いバッテリ電圧まで動作させることができる.
したがってウは正しい記述.
[解答群エの検討]
入出力間電圧差VIN-VOUTと負荷電流ILに比例して損失が大きくなるのは②のシリーズ・レギュレータの特徴である.降圧チョッパ型DC-DCコンバータは,入出力電圧差VI-Oや負荷電流ILが大きくても損失PDは大きくならず,高電圧入力,大負荷電流の用途に適している.
したがってエは誤った記述.
以上から,正解はウとなる.