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電波で電力伝送,宇宙にも応用! 東洋大学 理工学部 電気電子情報工学科 ワイヤレス伝送研究室

電波で電力伝送,宇宙にも応用! 東洋大学 理工学部 電気電子情報工学科 ワイヤレス伝送研究室

<藤野 義之>

研究室の紹介

 当研究室はアンテナ・マイクロ波などの電波を中心としたワイヤレス技術を用い,宇宙に応用することを目標としています.
 電波関連の分野では携帯電話やGPSなど,さまざまなシステムが近年実用化されていますが,その多くはモジュール化され,あまりユーザが容易に近づけないものになってきてしまっています.この中でどのような電波のやりとりが行われているかという疑問を持った人はいませんか.この疑問を大切に,アンテナなどの基礎からのものづくりを行い,新しい電波システムに役立てる研究を実施していきます.

構成員:藤野 義之(教授),ほか学生10名程度

 

研究内容

 研究課題は電波を使った無線伝送を中心に据え,宇宙関連への応用研究を行っています.このための研究手段として,アンテナ・マイクロ波回路技術を活用し,理論解析,電磁界シミュレーションを行うとともに,マイクロ波回路の試作や,電波暗室やフィールドでの実験によってその有効性を確認します.
 無線による電力伝送技術(空間伝送型無線電力伝送)は,電磁波を電力の伝送に使う技術であり,微少な電波を電源として活用するエネルギー・ハーベスティング(環境発電),成層圏に無人の飛行船等を滞空させて通信の中継基地に使う成層圏プラットフォーム計画,宇宙で電力を発電して地球に送るという新たな宇宙太陽発電衛星計画(SPS)まで,幅広い応用が開始されています.このための送信機や受信回路(レクテナ)にかかわる装置の高効率化や高周波化,SPSの実証のための試験衛星に関しての研究を実施します.
 宇宙関連への応用研究として,人工衛星搭載アンテナのパターン測定法の研究や,衛星同士の電波干渉に関する研究などを行っています.

具体的研究

電波を受けて走る「電波ミニカー」

 写真1は無線電力伝送のデモンストレーションのために開発した電波ミニカーです[1].350MHz帯のデジタル簡易無線局を使い,このトランシーバが発生する電波を,レクテナと呼ばれるアンテナと整流回路が一体となったデバイスで受信します.

 

写真1 電波ミニカー

 

 レクテナ用の整流回路の構成方法は,UHF帯からマイクロ波という高い周波数ですので,集中定数の設計をとるか,分布定数設計とするかで変わってきます.この場合は集中定数の設計を採用し,シングルシャント型の整流回路を用いました.このことで,模型のミニカーが十分走行することを確認しました.これは,電波を用いた無線電力伝送(空間伝送型無線電力伝送)の効果をわかりやすく説明するためのデモンストレーション・システムを目指したものです.

パルスレーダによる環境発電

 また,環境発電関連の研究として,パルスレーダを用いたエネルギー・ハーベスティングの研究を実施しています.10GHz帯用のレクテナを製作し,実験を行っています.このレクテナの整流回路はプリント基板上に分布定数を用いたマイクロストリップラインで設計を行っており,エッチングの技術を駆使してプリント基板の作成や電子部品の実装を行ったほか,実際のレーダを用いて実験を行っています[2]

衛星搭載アンテナの特性を地上で推定する

 さらに,宇宙太陽発電衛星の実証試験のための試験衛星を例に,衛星搭載アンテナの特性を地上での推定する手法について,新たな手法を開発しています[3]

研究成果物

[1]藤野 義之;“シンプルなレクテナ回路の実験”,RFワールド,vol.37,pp.95-99,2017年2月.
[2]藤野,森下,佐藤;“パルスレーダによる無線電力伝送に関する基礎研究”, 2019年電子情報通信学会ソサイエティ大会,2019年9月.
[3]藤野,高橋,松戸,田中;“二次元最小二乗法によるSPS試験衛星受信局測定誤差の解析”,宇宙太陽発電,vol.4,pp.31-34,2019年3月.

◆東洋大学 理工学部 電気電子情報工学科 ワイヤレス伝送研究室のWebサイト
 http://www.toyo.ac.jp/nyushi/undergraduate/sce/deec/laboratory/fujino.html

 

[本記事の情報は2020年1月時点のものです]