編集部
自分で開発した究極の自動車で世界中の道を気持ちよく走りたい!
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻/
堀・藤本研究室博士課程1年生
布施 空由
● 自己紹介
私は乗物全般が大好きです.車やバイクに乗ってドライブするのが趣味です.将来は環境に優しく,安全で楽しい自動車を開発し,それに乗って世界中の道を気持ちよく走ることが夢です.ここでは,現在取り組んでいる研究の一部を紹介します.
● タジマEV 社との共同研究…世界最速EV の開発
私は,アメリカ独立記念日前後にアメリカ・コロラド州のパイクスピークで毎年行われる自動車と2輪車のレース「パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒル・クライム(PPIHC)」での活躍で知られる「モンスター・タジマ」こと,田嶋 伸博氏が率いるタジマEV社との共同研究を進めています.本プロジェクトでは,世界最速のEVを開発しPPIHCでの優勝やコース・レコードの樹立を目指しています.
写真1(a)に示す,タジマEV 社が開発中の「Monster E-Runner Kode6」は,6 輪独立駆動型で最大総出力は1500kW(およそ2020HP)です.この車両に堀・藤本研究室で開発してきた,DFCと呼ばれるEVを想定したトラクション制御の一種である駆動力制御系のシステム(図1)を実装する予定です.
(a) MONSTER E-Runner Kode6
これにより,各輪を駆動しタイヤの負担を最適配分する駆動力配分則とスムーズな旋回をアシストするヨーレート制御を組み合わせることで,究極の車両運動性能の実現を目指しています.
2018年10月に実施した共同実験では,写真1(b)に示すレース用EV「E-Runner 2016( 最大総出力1100kW)」を用いてDFC の実装試験を行いました.
(b) E-Runner 2016
堀・藤本研究室史上初となる高μ ミュー路(μ:摩擦係数)での全開加速実験では,DFCによるトラクション制御が熟練テスト・ドライバによるペダル操作よりも優れることが実証されました(1).
今後も引き続き実験検証を重ね,開発中の車両運動制御の課題発見と改良に努めていきます.
コラム 東京大学 堀・藤本研究室の取り組み
私が所属する堀・藤本研究室では,「究極のEV(2)」の実現に向けて,2 つのアプローチで研究を進めています.
① 無線走行中給電
航続距離は事実上無限大となり,搭載バッテリ量の大幅な削減や,それに伴う軽量化,コスト・ダウン,充電時間の短縮,省資源化が期待できます.省バッテリ化が実現できると,車内空間の確保やデザイン性も向上します.
② EV ならではの車両運動制御
モータはトルク応答が数ミリ秒とエンジンよりも100 倍以上速いことに加え,発生トルクが正確に把握できます.これにより,ガソリン車を圧倒的に凌ぐトラクション制御ができます.さらに,小型・機電一体型インホイール・モータを分散配置して4 輪独立駆動化すれば,車両の挙動を自在に制御でき,どのような路面でも安心して走れるようになります.
〈布施 空由〉
コラム 学生フォーミュラ日本大会でインホイール・モータ搭載のEVがEVクラス1位に!
2019年の学生フォーミュラ日本大会では,名古屋大学が日本勢史上初となるインホイール・モータ搭載のEV(写真A)で参戦し,見事にEVクラスで1位,ガソリン車も含めた全体でも総合3位を獲得しました.
「アクセラレーション(加速性能)」や「スキッド・パッド(旋回性能)」などさまざまな評価項目で好成績を収め,4輪独立駆動するインホイール・モータ搭載EVが持つポテンシャルの高さを見せつけました.名古屋大学のチームによれば,車体の軽量化や車両運動制御アルゴリズムの改良など,まだまだ伸びしろがあるとのことです.
今後のインホイール・モータ搭載EVのさらなる躍進に期待です!
〈布施 空由〉
推薦者 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻 教授 堀 洋一
布施君は,モンスター・タジマとの共同研究をはじめ,興味あることに真剣に取り組んでいます.国際会議での発表や論文誌投稿を数多く行っています.研究だけでなく,積極的に交流会やイベントに参加しています.今後の成長と将来の活躍を期待し,次世代のエースとして推薦します!
▪参考文献▪
(1) Fuse. H,et.al.,“Experimental Verification of Driving Force Controller Using High-Power Racing Electric Vehicle,SAMCON2019,2019.”
(2)堀・藤本研究室ホームページ;https://sites.google.com/edu.k.u-tokyo.ac.jp/hflab
[本記事は,トラ技ジュニア No.37(2019年春号)に掲載された記事を再編集したものです.筆者の肩書き等は執筆当時のものです]